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事例紹介―豊岡市立府中小学校「保護者の“心の扉”を開く学級通信」

兵庫県豊岡市立府中小学校に勤める西村徹先生は、学級通信を発行し続けて今年で28年目を迎える。情報を伝えるだけでなく、読み手の心を開かせ、多くの人と繋がりを築いていく学級通信の内容とはどのようなものなのか。西村先生に学級通信に対する思い入れと作成のポイントを語っていただいた。

実践事例インタビュー

西村先生は、学級通信を通じて、どのようなことを子どもや保護者に伝えたいとお考えですか?

豊岡市立府中小学校豊岡市立府中小学校

一番強く思うのは、私が子どもたちと触れ合う中で覚えた感動を保護者にも共有してもらいたいということです。「へぇ!」と感心していただけるようなエピソードや私自身の率直な意見や感想を載せることで、保護者が学校や教師に対して“心の扉”を開いてくれればと思います。それから、子どもたちの日々の様子はできるだけ詳しく知らせたいと思っています。学校での子どもの様子がわかれば、やはり保護者の方々も安心して教育活動を見守ってくださるのではないでしょうか。

現在発行されている学級通信には、具体的にどのような内容を執筆されているのでしょうか?

西村徹先生西村徹先生

現在は1週間に一度のペースで学級通信を発行しているのですが、毎号連載しているものの中に「○○さんに聴く」(※○○には人名が入ります)というコーナーがあります。ここでは本や日常生活の中で、私が「ハッとした」言葉について個人的な感想を交えながら紹介しています。先ほど述べた「感動の共有」にも繋がるのですが、私と同じ驚きや気付きを子どもたちや保護者にも感じ取ってもらうことで「心の在り方」について全員で考えていきたいのです。そのため掲載する言葉もやみくもに選ぶのではなく、子どもたちの様子をよく観察し、「今必要としている言葉は何か」を見極めた上で、選択するようにしています。

それから、1日の中で印象に残った子どもたちの「態度」や「発見」を毎日100字前後で綴り、1週間分まとめたものを「日々を歩む」というコーナーにして掲載しています。私は、毎週授業計画表を保護者に配布しているのですが、「日々を歩む」はこれと連動した形をとっています。つまり、授業計画表で「出来事」を、「日々を歩む」の中で「子どもたちの心の交流や発見」など“目に見えない部分”を伝えることで、事務的な連絡事項だけでなく、より実情に即した学校の雰囲気を保護者の方々に理解していただけるのではないかと思っています。

このように「心の成長」を大きなテーマとした学級通信づくりは、いつごろから始められたのでしょうか?

私が30代の頃は「学力の向上」を意識していたこともあり、学級通信には授業内容を中心としたトピックスを掲載していました。しかし8年前に、自分の尊敬する教育者である故・東井義雄先生の本づくりに携わった際、「命の尊さ」を訴えた本の内容に関して非常に多くの反響が寄せられたことから、「今最も大切なのは心の教育である」ことを強く実感したのです。そのとき知り合った方々とは今でも交流があり、そこから受ける刺激や感動が学級通信の話題や内容をより深めてくれていると感じます。

子どもや保護者に関心を持って読んでもらうためには、具体的にどのようなポイントが挙げられるでしょうか?

いままでに発行した学級通信いままでに発行した学級通信

私は、学級通信にはできるだけ子どもたちの長所や善い行いを載せるようにしています。これについては保護者の興味を引きやすいという理由もありますが、一方で子どもたちに他人の存在や考えに意識を向けてもらいたいという狙いもあります。普段子どもたちは大勢で遊んでいても話題にするのはテレビやゲームのことが多く、友達が日々何を考えて過ごしているのかといったことには、いまひとつ注意の向かない傾向があります。そのため、学級通信を通じて友達の言動を知ることで、その意図について考え、お互いの価値観を認め合える他者性を養ってほしいと思います。

反対に、これは注意しなければならないという点について教えてください。

何かをお願いする際に「強制」はしないということです。例えば、保護者に対して「子どもがしっかりとあいさつをするようにしつけてください」と呼びかけても、一方的にお願いするだけでは反発心を招きかねません。特にあいさつやお礼の言葉など、心の育ちにかかわることについては、「命令」ではなく「率先垂範」によって、まず自分自身が手本を示すことが重要です。もちろん忘れ物や遅刻など、指導しなければならない場合もありますが、学級通信にお願いを書くときは、「○○くんは元気にあいさつができます。きっと○○くんのお父さんお母さんも普段から気持ちのよいあいさつを心がけているのでしょう」というように、善い行いを褒め、広く知らせることで周囲の環境も好転させていくことを心がけています。

学級通信に対する保護者の反応はいかがでしょうか?

1週間の子どもたちの心の様子が描かれている「日々を歩む」クリックで拡大1週間の子どもたちの心の様子が描かれている「日々を歩む」

ある保護者の方から「『○○さんに聴く』で紹介された言葉に非常に感銘を受けました。もう何年も前の学級通信なので、紙もすっかり茶色く萎びてしまいましたが、今でも壁に張って時々読み直しています」という言葉をいただき、とても嬉しく思いました。私は、子どもたちや保護者とは「卒業してからが本当の付き合いの始まり」と考えています。このように職業的な義務や立場を超えて、人間対人間のお付き合いをしてくれる方が多くいることは、とても幸福なことだと感じています。

最後に他校の先生方へのアドバイスをお願いします。

学級通信を書くことは、保護者に必要な情報を伝えると同時に、自分自身を見つめ直す行為でもあります。その日に何があったのか、どのような印象を持ったのかということを書き続けていくことで、自分を客観的に捉えることもできますし、文章の鍛錬にもなります。また、学級通信の作成に行き詰まりを感じるようでしたら、自分の尊敬する先生方の学級通信を参考にすることをお勧めします。初めは真似しているだけでも、継続してさえいれば、必ず自分が本当に伝えたいことと既存の表現方法との間に「隔たり」を感じるときがくるはずです。それこそが実はオリジナリティの芽生えであり、魅力的な学級通信をつくるための第一歩になることでしょう。

ありがとうございました。

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